自分に合った「水」を探そう 〜栄養士のColumn Vol.85
その土地や環境に適応する、なじめないことを「水が合う、合わない」と表現されることがあります。
実際に海外旅行先や引っ越し先で、肌や髪のコンディションが悪くなったり、お腹を壊したりといった体調の変化を経験したことがある方も多いのではないでしょうか。
これは、普段口にしたり肌に触れたりしている水と異なることで起きるトラブルが原因だったりします。
また、水は体調だけでなく、料理の味をも左右します。
和食の基本である出汁、フランス料理のスープのベースとなるブイヨンやソースのベースとなるフォンなど、素材の旨味を引き出すのにも水が大きく関係しています。
今回は、そんな「水」についてお話しします。
人にとっての水の役割
人間は、成人で体重の約60~65%を「体液」という水で構成されおり、私たちが日々水を体内に取り入れることは、生命維持に必要不可欠なことです。
飲料水などでとった水分は、腸に吸収されて血液などの体液になり、常に体内を循環しています。
酸素や食事で取り込んだ栄養素を血液で細胞へ送りこんだり、老廃物を尿や汗として体外へ排泄する役割も担っています。
また、汗を出して体の熱を逃して体温を調節したり、体の表面にある水分は、皮膚の乾燥を防ぐ役目もあります。
このように普段から何気なくとっている水は、私たちが生きる上で非常に大切なものです。
水分を摂らずに水分不足になると、老廃物が排出しづらくなったり、血液がドロドロになって摂取した栄養が行き渡らなくなり、体に不調が出てくるのです。
だからと言って、一気に水分をとれば良いものでもありません。
朝起きた時、仕事中、入浴後、寝る前など、こまめに水分補給することで、体に負担をかけずに水分量を一定に保つことができます。
水の種類
水は、含まれる成分によって分類することができます。
水には、主にカルシウムイオンとマグネシウムイオンが含まれていて、水1000ml中に溶けているカルシウムとマグネシウムの量を表わした数値を「硬度」といいます。
WHO(世界保健機関)の基準では、硬度120mg/L以下が軟水、120mg/L以上が硬水とされています。
軟水と硬水は、その地域の土壌成分や土壌内での滞留時間の違いで変わってきます。
次に、「軟水」と「硬水」の特徴についてみていきましょう。
軟水の特徴
日本の水道水は一般的に軟水であると言われています。
これは日本の地形が大きく影響しています。
日本は活発な火山活動と地殻変動により急峻な山地ができたことにより、河川の長さは短く海までの傾斜が大きく、比較的短時間で地下水が地層を流れるため、あまりミネラルを含まない軟水となります。
カルシウム・マグネシウムなどのミネラルの含有量が少ないので、口当たりが軽く、まろやかな口当たりとさっぱりとした風味で飲みやすいのが特徴です。
軟水を使ってお米を炊くと、ふっくらと甘みのあるご飯が炊けます。
昆布の旨味成分グルタミン酸は、軟水に溶けやすい性質をもっているので良い出汁がとれたり、煮物は味がよく染み、やわらかくなります。
日本で発酵食品が発展し受け継がれてきたのも、麴菌が嫌う鉄分をほとんど含まれない軟水があったからだと言われています。
このように和食のおいしさを引き立てるのに、軟水は欠かせないものになっているのです。
硬水の特徴
海外は硬水が多く、中でも欧米は特に硬水が多いです。
これは、河川の長さが長く、海までの傾斜が緩やかなので、ゆっくりと時間をかけて地層を浸透して通り抜けることで水の中にミネラル成分が溶け、硬度が高くなるからです。
ミネラルのしっかりとした風味が味わえる反面、クセがあり、口当たりが重く苦みを感じる場合もあります。
スポーツなどで汗をかいた時のミネラル補給や、便秘の解消などのデトックス効果が期待されています。
料理としては、パエリアやピラフなど歯ごたえのある食感を出す調理方法や、ミネラルがうま味を引き出すボーンスープ、煮崩れさせたくない野菜料理、スパイシーな味つけの魚料理、ビーフシチューなどの肉料理、パスタを茹でる際にも適しています。
生活の中では、硬度がかなり高いものだと、石鹸やシャンプーの泡立ちが悪く、髪がきしんでしまったり、肌が乾燥しやすくなったりしてしまいます。
ミネラルウォーターの種類
近年、たくさんの種類のミネラルウォーターが店頭に並んでいます。
その数、国産品と輸入品を併せて約1,000銘柄以上あるといわれています。
このミネラルウォーターとは、特定の水源から採取した地下水のうち、地中でカルシウムやマグネシウムなどのミネラル類が溶け込んだものです。
ミネラルウォーター=天然水というイメージがあるかもしれませんが、厚生労働省「ミネラルウォーター類の品質表示ガイドライン」によると、ミネラルウォーターの中でも天然水と言えるのは「ナチュラルウォーター」と「ナチュラルミネラルウォーター」だけです。
「アルカリイオン水」や「海洋深層水」、「ピュアウォーター」など、地下水以外の水や独自の水質、ミネラル分を含まないものは「ボトルドウォーター」として分類されます。
次に、最近よく耳にする水の特徴を紹介していきます。
ビタミンとミネラルの役割 〜栄養士のColumn Vol.21 (後編・ミネラルについて)
アルカリイオン水の特徴
「アルカリ性電解水」のことで、主に水道水を電気分解し、pH8〜10(ph値:水素イオンの濃さをあらわす数値)の弱アルカリ性の水を指します。
家庭用の整水器などを使って作ることもできますし、ペットボトルで市販されていることもあります。
アルカリイオン水は、腸内が酸性に偏ることが原因で起きる胃もたれや消化不良、下痢など、胃腸のさまざまなトラブルの改善に期待を持てます。また、水分子が小さいため、身体への吸収率が高く、体内に蓄積した老廃物を外に出す働きから、デトックス効果も期待できます。
温泉水の特徴
温泉は入るだけでなく、直接体内に摂り入れる方法として、温泉を飲む方法があります。
古くからヨーロッパでは、温泉地で温泉水をグラスに入れ、時間をかけて飲んでいる人の姿を見かけることがあります。
日本にも飲泉を行う場所があり、直接温泉地で飲むこともできますが、硫黄臭がしたり塩分が含まれていたりと、飲みづらさを感じるものが多いかもしれません。
市販のペットボトル入りの温泉水は、元々の成分を生かしながら、ろ過や味の調整などを行い、飲みやすくしたものがほとんどです。
種類にもよりますが、身体のイオンバランスをやさしくサポートしたり、内側から潤いを与えたり、自然治癒力を回復させることにも期待されています。
水素水の特徴
気体の水素(水素分子=H2)が溶け込んだ「水」のことです。
公的な定義がないため、どれくらいの濃度で水素水と呼ぶかはメーカーによってもさまざまです。
水素水は、老化や病気の原因である活性酸素が引き起こす様々な症状を改善し、アンチエイジングに有効といわれています。
また、抗炎症作用、抗アレルギー作用などの免疫力を高める効果、エネルギー代謝を高めることによるダイエット効果などが期待されています。
水素水は、ペットボトルや缶入り、アルミパウチ入り等で販売されています。
水に溶け込んだ水素は時間とともに抜けていく特性があり、一度開封したら、なるべく早く飲みきる必要があります。
いくつかの水の特徴をご紹介してきました。
自分に合ったお水を選ぶポイントとしては、普段の食生活でミネラルが不足している場合はミネラルを多く含む硬水を選ぶ、お通じや胃腸の不調を感じる時はアルカリイオン水を試してみる、といったようにライフスタイルやお悩みに合わせてみるのもひとつです。
それでも一番のポイントは、自身の身体に合っていて飲みやすく、こまめに水分補給ができるかです。
健康や美容にとって欠かせないお水を、毎日きちんと必要な量を摂って生き生きとしたライフスタイルを送りましょう。
たくさんのお水が販売されている中で、ご自身に合ったお水を是非見つけてみてください。